出張という旅 2018年静岡 会津若松
静岡
年明けて1月、新社長が親会社から着任し、2018年がスタートした。
当面の私のミッションは、各地方に分散している営業担当社員との面談と市場視察、取引先へのあいさつまわりと商談である。
この年最初の出張は静岡だった。静岡担当の営業担当との打合せを兼ねた面談が主な目的である。
品川9時10分発のひかりに乗車、指定席券は3日ほど前に予約購入していたが2人掛けシートは埋まっており3人掛けの窓側A席であった。
会社から東海道新幹線のEXICカードが支給される予定だがまだ届いておらず、JR東日本の「えきねっと」で予約購入して品川駅の自動券売機で受取った。品川駅ではJR東海とJR東日本、どちらのきっぷ売り場でも東海道新幹線のチケットは購入できるが、ネット予約した分は利用したアプリがJR東日本の「えきねっと」ならば、JR東日本の窓口か、券売機でないと受け取れないので、とてもややこしい。
通路越しの窓から頭に雲の帽子をかぶった富士山が見える。今日は新鮮に見える富士山だがこれから出張の度、何回見ることになるだろうか。
五十数分で静岡到着。
ひかりの指定席は満員に近かった。この時間、のぞみ号はがんがん走っているが静岡停車のひかりは1時間に1本程度しかなく、こだまよりは三十分近く速いひかりに乗客が集中するものと思われる。実際私の乗った11号車からは半分近くが静岡で席を立ち、そのほとんどがスーツ姿であった。
都内の多摩方面へ行くのと大して所要時間は変わらないが静岡行きは出張扱いである。社内規定で本社から100キロ以上あれば出張扱いとなり、静岡の他、甲府、高崎、水戸。宇都宮以遠が出張扱いとなる。
静岡駅前の街は平日の午前中ということもあってか、予想以上に閑散としていた。
数件の取引先の小売店を視察した後、営業担当のFさんと合流。駅ビル内のレストランで昼食の後、打合せを行う。
夕方、東京の新宿で商談の予定があるため打ち合わせ後ただちに「ひかり」で東京へとんぼ帰りである。静岡は意外と近く東京近郊の感覚だったが、新幹線の魔力は絶大である。
静岡出張の後、静岡と同じ目的で函館、札幌を1泊2日、大阪、広島、福岡をまとめて1泊2日でまわり、さすがにこの時は移動と打合せで終始し、慣れない事も重なりたいそう疲れが残った。
福島県会津へ向かうため、東京駅7時8分のやまびこ123号に乗り込んだのは2018年2月26日である。
今回の出張目的は福島県在住の営業担当者との打合せと、会津若松に本部のある取引先へのご挨拶と商談同行である。
会津若松のような地方都市にまで出張に行くとは想定していなかったが、滅多に行ける場所ではないので密かに嬉しい出張だ。残念ながら業務的にも、日程的にも泊りにはできず、日帰り出張となるのが惜しいがこればかりはやむを得ない。
東北新幹線やまびこ123号は、宇都宮ではやぶさ通過待ちのため数分間停車する。
実はこの新幹線下りホームのすぐ近くに、宇都宮赴任時に住んでいたマンションがあり、かつての我が家とホームの壁窓越しに対面した。そういえば2か月ほど前に札幌へ向かうJAL機から、宇都宮駅やこのマンションを視認できたことを思い出す。
今日も快晴に近い青空のもと、やまびこ号は快調に那須野原を疾走する。二人掛けのE席側からは日光の山々、那須岳を望むことができ、山々の頂は白かった。
郡山駅。ここに来るのはおそらく学生の頃以来であろう。郡山は明らかに北関東ではなく東北地方の街だ。宇都宮以上に冷たい空気が一段と頬をさしてくる。東京駅から80分ほどのところだが、とても遠くに来た感覚だ。
郡山から磐越西線、9時38分発の会津若松行き普通列車に乗り換る。同じJRの電車でも東京ではドアが片側4か所あるが、ここでは3か所であることからも東北地方に足を踏み入れたことを実感する。
列車は4両編成だったが発車間際には立つ人もいるくらいの乗車率となった。予想した以上に観光客の姿が多く、近隣アジアからの訪日旅行者のグループも目立ち、車内はとても賑やかである。
磐梯熱海を発車すると列車は山間に分け入り高度を上げていく。周囲は雪が深くなった。
トンネルを抜け上戸を過ぎると左手に猪苗代湖の湖面が一瞬輝き、右手には磐梯山が列車を見下ろしているようにそびえていた。観光客がスマホで撮りまくる。
真っ白な雪原から快晴の日差しが反射し、まぶしい光線の中を列車は右に左にカーブしながら会津若松へ下っていく。そのたびに磐梯山は車窓の右や左へ移動する。つい2時間ほど前までいつもの朝の横須賀線に揺られていたのが信じられない。出張で来ている事を忘れそうな光景だ。
会津若松に11時前に到着。乗客は私も含めて一斉にホームに接した改札口に向かう。
ここでK営業担当と合流し、少し早いが駅ナカの食堂で喜多方ラーメンを食す。喜多方はほぼ隣町である。本場に近いせいか美味く感じる。
ここからまた列車、といっても1両しかない会津鉄道のディーゼルカー会津田島行きに乗り込む。もう出張ではなく鉄道の旅をしているようなものだ。発車案内ボードにはこの列車のあとは東武日光行き12時52分発の表示。会津若松と日光が線路でつながっている。いつかは乗ってみたいが今日は出張、おまけにひと駅だけの乗車だ。
西若松駅からはタクシーで会津若松郊外の商談先へ向かう。仕事モードに我をリセットだ。
商談は次月の新商品の展開や納品要領について1時間ほどで終了。先方は当社に対し大変好意的でKさんによればいつもこんな感じらしい。どこもこうであればいいのだが。
帰りは会津若松の駅へタクシーで直行。商談も終わり気持ちに余裕もあり、街並みに見入る。2月ということで観光客は少ないとタクシーの運転手さんが語っていた。鶴ヶ城が遠くに見え、立ち寄って行きたいとも思うが寒いし、時間もないので駅へ直行する。
往復でタクシー代は五千円超え。これならレンタカーを借りた方が安かった。駅のお土産店には「赤べこ」が並んでいる。
来た時のルートを巻き戻すかのごとく郡山行きにKさんと乗車する。帰りは2両編成のうえ学校帰りの生徒さんたちで満員。
辛うじてドア脇に二人並んで着席することができた。睡魔とはよく言ったものでいつの間にか記憶が飛んで、郡山到着のアナウンスで我に返った。
郡山でもうひと仕事。近くのうすい百貨店内の喫茶店でK営業担当と面談を行い、今回の業務は終了した。夕方ではあったが店内は東京とは比べようもなく閑散としていた。
会津は近くて遠かった。東京から320キロほどでそう遠くはないが3時間以上はかかる。ほぼ同じ距離で新潟、仙台、名古屋などがあるが、いずれも2時間以内で到着可能だ。
新幹線一本で行けるのと、在来線に乗り換えが発生するのとでこれだけの差があるわけだが、それ以上に車窓からの白い山々の景色、会津若松の街並み、耳に入ってくる会話の訛りから、大変遠く来たような感覚になった。
その後出張で全国各地を訪ねたが、近くて遠い感覚はこの会津行きが一番だった。
「間もなく終点東京に到着します・」の新幹線車内アナウンスで、一気に現実の世界に引き戻された。車窓には人がつまった京浜東北線の電車が並んで走っていた。
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